logo3

Think Hybrid.

Research

バイオハイブリッドデバイス

【概要】
 生物のような機械を創るという視点で、これまで多くの工学的研究がなされてきました。たとえば、生体の優れた機能を模倣し、人工物として実現するバイオミメティクスやバイオロボティクスなどの研究が盛んに行われています。実際、生物の持つ超高感度センシング能力、高効率エネルギー変換能力、生体適合性などの機能の実現は、次世代の医療・診断、環境計測デバイスの開発において重要な課題となっています。これらの研究の取り組みの中で、生物機能を人工物のみで実現するのが難しい場合は、生物そのものを利用し、機械の中で機能させるアプローチも生まれてきました。そこで我々は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)やマイクロ流体デバイス技術を駆使し、機械要素と融合して機能するバイオハイブリッドデバイスの研究を行っています。
 たとえば、生体の代表的なアクチュエータは筋肉です。「アクチン」、「ミオシン」と呼ばれる2種類のタンパク質で構成され、それらが化学エネルギーを高効率に機械エネルギーにして滑り運動を実現しています。また、細胞膜に存在する膜タンパク質は、膜を介して行われるほとんどすべての物質の認識や輸送・交換を担っています。そのため、この膜タンパク質に作用する物質は創薬における重要なターゲットになっています。また、膜タンパク質は外界からの光や匂い・味などの感覚情報を、光子や匂い分子など一分子レベルで認識しているため、工学的にも魅力的な素子で、そのメカニズムの学術的理解はもちろん、次世代の超高感度化学量センサーとしての利用が期待されています。
 ここでは、これらの魅力的に生体材料と機械システムを組み合わせることでこれまでに実現が難しかった機能をもつメカニズムの創出を目指しています。

匂い受容体を発現した細胞を用いたロボットの匂いセンサ

 匂い物質を検知する膜タンパク質を細胞に特異的に発現させ、これを匂いセンサとしてロボットに取り付けることによって、特殊な匂いに選択的に応答するロボットの開発に成功した。
 これまでの匂いセンサは酸化物半導体をベースに作られたものが多く、用途や感度が限られていた。また、普段人間が嗅いでいる体臭などの匂い物質を高感度に検出するのは難しかった。そこで研究グループは、生物の匂い検出の原理に注目した。細胞に匂い受容体である膜タンパク質を発現させ、チップデバイス(写真左)を用いて、それらの細胞が匂い刺激に対して発生する電気的変化を計測することによって、匂い物質を選択的に高感度で検出することに成功した。

 匂い物質の検出には、昆虫(蛾)の触角にあるフェロモン受容体を利用した。センサを組み込んだロボット(写真)にフェロモン刺激を与えると、ロボットが首振り動作をした。通常ロボットには様々な電気配線があり、細胞が刺激に応答する際に発生する微弱な電気的変化は検出しづらい環境であるが、デバイス内に細胞を隔離することにより安定して計測できるようになった。このシステムでは、匂い物質の検出に生物の持つ様々な受容体を応用できるため、将来、ロボットに搭載するセンサのみならず、これまで難しかった大気や水道水などに存在する微量物質を高感度で検出できる環境センサとしての利用も期待できる。
 本研究は、細胞を使った匂いセンサの初の例としてPNAS誌のThis week in PNASにハイライトされる他、CELLやNature Materials誌にも取り上げられた。さらに、Popular Science誌のBest of What’s new 2010を「The sharpest sniffer」として受賞した。
 N. Misawa et al,: Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 2010, selected in “This week in PNAS”, Highlighted in Nature Materials, and Cell

 

大腸菌の形状コントロール

大腸菌の形状コントロール

この研究では大腸菌を用いてフィラメント状の細胞を作り,されにそれを三日月型やジグザグ型,正弦波型やらせん状といった任意の形に変形させる技術を開発しました.まず,アガロースのマイクロチャンバーを作ります.その上に大腸菌の入った試料を流し,アガロースの厚板かPDMSシートをその上に載せ蓋をします.アガロースは細胞の乾燥を防ぎ,チャンバー内に栄養を供給する働きをします.大腸菌はチャンバーの中で細胞分裂を行いますが,この際,抗生物質を加えておくと分裂が阻害されフィラメント状に伸びます.そして,チャンバーの形に沿って変形します.さらに,変形した後の大腸菌はチャンバーから取り出しても運動性を保っているということが分かりました.

運動性生体材料を用いたマイクロ駆動デバイスに関する研究

 本研究では、クラミドモナス細胞や鞭毛の運動性を利用してマイクロ構造体を駆動することに成功した。また,マイクロサイズの有機EL光源によってクラミドモナス細胞の光誘導が可能なことを明らかにした。
 近年、Micro Electro Mechanical Systems (MEMS) 技術を利用して、 細胞や生体分子といった微小かつ微量の試料を扱うマイクロデバイスの研究が盛んに行われている。 このようなマイクロデバイス中では微小物体の搬送やマニピュレーションが重要であるが、従来の電気機械的な方法では生体親和性などに課題があった。そこで、運動性能を持つ生体材料を動力源としたマイクロシステムの研究が近年注目を集めている。運動性生体材料には、自走性の細胞や筋肉を構成する蛋白質であるモーター蛋白質などが知られているが、本研究では培養が容易、外部刺激に強い、走光性などの特長を持つクラミドモナスと呼ばれる緑藻類真核生物をマイクロ構造体の駆動源として利用することを提案した。  
 ここではアビジン・ビオチン結合を利用してクラミドモナス生細胞とシリコンで作られたマイクロ構造体を結合・駆動する方法を採用した。クラミドモナスのビオチン化の効果、マイクロ構造体のアビジン化の効果を蛍光染色で確かめた後、細胞と構造体を混合した。その結果、1個から数個のクラミドモナス細胞が構造体の側壁などに吸着し、回転運動や直線運動をしているものが観察された。この時、細胞本体部分が構造体に吸着され、鞭毛を自由に動かすことができるときに高い運動性を示すことが分かった。
 クラミドモナスのもう一つの特徴に、鞭毛を人為的に本体から切り離すことができる点があり、切り離した鞭毛はアデノシン三リン酸 (ATP) 存在下で回転運動を起こす。鞭毛を、人工的に再構築することができれば、高効率のマイクロアクチュエータとして利用できるが、そのためには、鞭毛と人工構造体のインターフェースが重要である。本研究では、蛋白質の吸着抑止能力を持つ2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン (MPC) ポリマーを用いて鞭毛を人工基板に選択的に固定する方法を検討すると同時に、鞭毛による人工構造体の駆動を試みた。本体から単離しATPで再活性化した鞭毛試料を、MPCポリマーがガラス基板上にパターンされたマイクロ流路中に流したところ、数分後にガラス露出部分に固定され、その場で回転している鞭毛が観察された。

H. Nakamura et al.: microTAS2007, pp. 1222-1224, 2007

モーターたんぱく質バイオアッセイのための高平滑ガラスチャネル

表面が非常に平らなガラスチャネルは生体分子の蛍光を使わない観察に利用できます。私たちはこのデバイスを用いて、ナノスケールビーズと微小管を一つ一つ鮮明に位相差顕微鏡や暗視野顕微鏡で観察することに成功しました。まず、ガラス表面の高平滑を実現するためにフッ化水素の適切な濃度を評価する必要がありました。表面の平滑度は分子間力顕微鏡(AFM)や電子顕微鏡(SEM)によって計測します。その後、パターニングされたPDMSシートをマスクとし、基盤となるガラスをフッ化水素でエッチングしました。それをPDMSコーティングされたカバーガラスでシールしデバイスを作製しました。その流路体積は2-3μlという微少なもので、アッセイに必要となるたんぱく質の量を劇的に減らすことができます。これによって従来のフローセルによる方法に比べより効率的なアッセイが可能となりました。

生体分子モーターを用いたバイオハイブリッド輸送システム

私たちは、ATPによって動く生体分子モーターを用いたマイクロ・ナノ輸送システムを実現しました。システムの駆動源は、直線状に移動する分子モーターの一種である微小管とキネシンです。 キネシンは微小管のレール上でATPを加水分解することで移動します。駆動に使う燃料は生体内にあるATPだけなので、外部からの電圧印加やエネルギー供給を必要としません。このため、分子モーターはバイオアクチュエータとして幅広い応用が期待されています。この研究では、バイオマテリアルとMicro Electro Mechanical Systems (MEMS)を結び付ける基礎的な成果を上げることができました。まず輸送のレールとなる微小管を、PDMSを用いて基盤上にパターンしました。そこにキネシンをコーティングしたマイクロビーズ(直径 320 nm)やマイクロ構造物を乗せ、ATPを加えることで微小管に沿って荷物を運ぶことに成功しました。その平均移動速度は、それぞれ476 nm/sと 308 nm/sというものでした。ATP導入によって輸送システムを活性化できることが分かったので、次にhexokinaseを阻害剤として使用し繰り返しon/off制御を行うことにも成功しました。

このページの先頭へ