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Research

膜たんぱく質チップ

【概要】
 膜タンパク質とは、主に細胞膜上に存在し、細胞の内外の物質輸送・排出に重要な役割を果たし、薬剤応答、エネルギー変換、免疫反応など生理的な機能に大きく影響しているタンパク質です。創薬においては、薬剤がどのように取り込まれ、排出されるかについては、薬効や副作用などを評価する上で非常に重要となります。また、工学的にみると、一分子レベルの超高感度な化学量センサとして機能していることが分かります。例えば、膜タンパクの一つであるイオンチャンネルは、一分子が吸着するとゲートが開放され、約10の7乗個のイオンを細胞内に通過させる「超高性能な増幅器」なのです。このようなセンサを工学的に利用できれば、生体物質や環境物質を高精度に検出できるセンサが実現できます。
 ここでは、MEMS(Micro electro mechanical Systems)技術を利用して、小型チップ上に微小な孔を作製し、そこへ膜タンパク質を組み込んだ人工脂質二重膜を再構成させ、構造・機能を保持した状態で膜タンパク質をチップに組み込む方法を研究しています。膜タンパク質は、細胞膜(脂質二重膜)に存在して機能を発揮するため、解析のためには、脂質膜上に膜タンパク質を安定に導入させることが必要です。微小流体を扱うのが得意なMEMS技術を上手く活用することにより、作製した微小孔に人工脂質二重膜を再構成させ、そこへ膜タンパク質を安定に導入することができます。さらに電気的な配線を組み合わせることで、膜タンパク質を介しての物質の出入りを、電気的に、再現性良く解析するチップが可能になります。また、同様の流路や微小孔を多数作製することもできるため、多数の膜タンパク質をアレイ状に構築した解析用チップを実現することも可能です。このチップが実現すれば、多数の膜タンパク質の機能を同時かつ迅速に解析することができるため、創薬候補物質の簡便かつ高速スクリーニングが可能になります。さらに微小流路および制御を上手く行うことで、球状の脂質二重膜(リポソーム)の作製も可能です。球状のリポソームへ膜タンパク質を導入することで、解析チップだけでなく、擬似細胞(人工細胞)のような構造を作製でき、機能解明において、より広い分野での研究にも貢献します。
 創薬の60%は膜タンパク質をターゲットとしており、重要なターゲットとなっていますが、再現性よく解析する技術はほとんどなく、また多検体で解析できる技術は実現しておりません。本研究で開発を目指す膜タンパク質チップが実現すれば、複数の薬への反応(薬効)を分子レベルで短時間に確認することができるため、新薬の開発を行う前臨床試験(動物や人への安全性試験)に入る前の薬効や安全性の確認が早急に可能となります。動物実験の軽減等により、例えば抗がん剤の開発費用等の大幅な低減が図れるものと期待されます。また膜タンパク質は、物質を選択的に出入させる分子であり、特定の極微量物質を検出する究極のセンサーとしても応用可能です。創薬開発の他、環境物質のセンシング等の応用へも展開可能です。膜タンパク質について、これまでにないアプローチで解析をしていくため、これまでに不明だった機能の解明も期待され、産業応用の他、学術的にも大きなインパクトが期待できます。

ロボットによる自動・並列人工細胞膜作製とシングルイオンチャネル計測

tlab website Research_膜チップ図

MEMS技術はこれまで主に半導体微細加工技術として発展しており、マイクロサイズのアンテナや加速度センサなどに応用されている。このMEMS技術は微細な構造物を集積化するのに適しており、特に電子デバイスと相性がよい。我々はこの技術を応用することにより、人工細胞膜を大量にアレイ化し、そこにイオンチャネルを再構成することで、チャネル電流計測が可能な人工細胞膜チップの構築に取り組んできた。これまでに、簡便にかつ再現性良く人工の細胞膜を形成可能な方法「液滴接触法(Droplet contact method)」を提案している。今回、液滴接触法を応用することにより膜チップを並列化でき、ロボットによる人工細胞膜形成が自動で可能になった。
このシステムを用い、実際に創薬に関係のあるヒト由来カリウムチャネル(hBKチャネル)について計測を行った。アレイデバイスは16ch同時計測可能なものを使用し、発現細胞から精製したhBKチャネルを人工細胞膜に再構成した。この人工細胞膜チップによりhBKチャネルのカリウムイオン電流を計測したところ、計測開始から2時間以内にアレイの90%以上からシングルチャネル応答が得られた。また機知の阻害剤を用いてチャネルに対するカリウムイオン透過の阻害実験を行ったところ、創薬試験において重要な50%阻害濃度(IC50)を短時間で決定することができた。さらにこれまで明らかとなっていなかった、アミロイドベータタンパク質のフラグメントがこのhBKチャネルを細胞の内・外どちら側からも阻害することをはじめて実験的に確認できた。
Ryuji Kawano et al., Scientific Reports, 2013

脂質単層膜コンタクト法(接触法)によるリン脂質2重膜の作製

人工平面リン脂質2重膜は膜たんぱく質の機能解析のための強力なツールです。しかし、これまでは安定性や再現性が低く扱いが難しかったため、広く使われてはいませんでした。そこで我々は、世界で初めてマイク流体デバイスを使い、水と有機溶媒の間にできたモノレイヤー(単層)の脂質膜をコンタクトさせ、脂質2重膜を構成するという簡単な方法を開発しました(右図参照)。単に界面を接触させるだけ脂質2重膜ができるので”接触法”と呼ぶことにしました。海外の大学でも多くの研究者に取り入れられています。最近では、この方法でできた膜をDIB(Droplet Interface Bilayer)と呼ばれています。
 電気容量測定や膜中に再構成されたイオンチャネルのシグナル計測によって,実際に2重膜が構成されていることが確認できました.私達は脂質2重膜構成のためのマイクロフルイディックデバイスとして二つのデザインを試しました.一つ目は二つの円形の小室を備え,その小室を有機溶媒で満たし,そこに水滴を挿入するだけで簡単に水/有機溶媒/水の境界を作ることができるものです.もう一つのデザインは+印状になった流路を持つもので,外部から接続したシリンジポンプによって境界を作ります.どちらの方法も簡単で再現性良く脂質2重膜を作ることに成功しました.これらの方法によって脂質2重膜を自動的に大量構成することも可能になると考えています.そして,生理学や薬剤開発のための膜輸送の高スループットスクリーニングに応用できると考えられます。

脂質二重膜マイクロチャンバへの電極配線技術

脂質膜マイクロチャンバシステムに対して、個々のチャンバに電極を配線した。PDMS・ガラスデバイスの接着性を保つため、配線に電極パターンとブリッジ流路を設ける工夫を行った。膜を通した物質輸送を、顕微鏡観察に加えて電気的計測によっても捉えることで、より多角的解析が可能になると考えられる。 研究業績:J MEMS 2011掲載、 電気学会誌E掲載、IEEE Transducers 2009 国際会議口頭発表

微小流路を用いたABCトランスポータ解析チップ

 ABCトランスポータは薬剤の細胞内濃度を制御しているため、新薬候補との相互作用解析が求められている。本研究では微小流路中にhMDR1トランスポータ担持ベシクルを固定化し、定量的蛍光解析により輸送活性を評価する手法を開発した。これにより単一トランスポータ当たりの輸送活性の評価に初めて成功し、アッセイ時間も大幅に短縮(3時間)した。
 医薬品候補物質となる低分子化合物について、生物の細胞表面にある仕組み(トランスポーター型膜タンパク質)を活用し、手のひらサイズのPDMS(樹脂の1種)チップ上で、トランスポーター型膜タンパク質に輸送されやすい物質を効率的に選別する技術を提案した。最近では、FDA(米国食品医薬品局)が新薬開発の際にトランスポーター型膜タンパク質との作用を評価することを推奨していることもあり、この成果は、特に初期段階でのスクリーニングにおいて、従来法に比べ格段のハイスループット(高い処理能力)が期待できる。

 低分子化合物がトランスポーター型などの膜タンパク質を介して細胞外へ排出される程度(つまり、その医薬品候補物質が細胞内にどのくらい留まるか)の評価は、その医薬品候補物質が実際に治療に使われる医薬品となりうるかを確かめる上で不可欠である。従来法では、個々の細胞が凝集した細胞塊を用いて実験するが、細胞塊を用いた場合の問題点は、1)個々のデータのばらつきが大きいため繰り返し実験を重ねる必要がある、2)細胞を扱うため実験手法が煩雑で実験に要する時間が長い(1回につき1日以上かかる)、3)投与する医薬品候補物質の量や実験回数が多くコストがかさむ、等が指摘されている。
 本研究では、1)従来法を数百~数千回繰り返したのと同様の結果を1回の実験で得ることができ、2)比較的短時間(3時間程度)で実験が済み、3)マイクロ流路を用いて溶液を交換するので投与する医薬品候補物質の量が格段に低減できる、といったメリットがある。今回明らかになったデータ(IC50値=50%阻害濃度)は、従来法により知られている文献値とほぼ一致していることから、創薬、特に初期の探索段階でのスクリーニング(医薬品候補物質の選別)において、従来法の革新的な代替技術としての活用が期待できる。

ABCトランスポータ解析チップ材料としてのパリレン被覆PDMS流路

微小流路材料PDMSは蛍光剤などの疎水性小分子を吸収するため、成果13においてトランスポータの定量的解析を困難なものにしていた。そこでPDMS表面にパリレン薄層を蒸着しこの問題を克服した。これにより、ローダミンBの温度依存的な蛍光強度変化を定量的に解析することに成功した。 研究業績:Sens. Actuators B 2010 掲載、MicroTAS 2010 国際会議発表、特許出願中

マイクロ流路を用いた微細チャンバアレイへの脂質膜形成(膜チャンバ)

我々が考案した接触法を利用して並列に脂質2重膜を形成し、マイクロ流路内に設計したマイクロチャンバを脂質膜で閉じる実験を行った。実際、右図のような流路を作成し、メイン流路に水溶液、有機溶媒、水溶液を導入することで、凹部を脂質膜で覆うことができた。これが2重膜であることは、α-ヘモリシンを導入し、膜透過実験行うことで示唆された。チャンバ容量が少ないため、膜を通した物質輸送の顕微鏡観察に適している。Lab Chip 2011掲載。

膜タンパクチャネルとDNAアプタマーを用いたコカインの迅速検出

 これまでに我々が考案した人工脂質2重膜中に任意の膜タンパク質を自在に埋め込む技術をもとに、ごく小さな穴(直径1.5nm。毛髪の太さ[約0.15mm]のおよそ10万分の1)が貫通した筒状の膜タンパク質(α-ヘモリシン)を人工脂質2重膜中に埋め込んだ。今回は、このα-ヘモリシンと、その穴を通過でき、かつコカイン分子だけと特異的に結合するDNAアプタマーを組み合わせた。このDNAアプタマーは、通常は1本鎖状をしており、筒状の膜タンパク質の穴を通過できるが、コカイン分子と結合すると形状が変化し、穴につっかかり捕捉された状態になる(模式図の状態)。これを利用し、DNAアプタマーがコカイン分子と結合し、α-ヘモリシンの穴に捕捉された際に生じる電流を検知することで、液体に溶けたごくわずかなコカイン(1リットル中に0.0003グラム)を検出することに成功した。試料をプラスチックチップに滴下してから電流検知までの時間は25秒と、ごく短時間であった。
 コカインの検出について、従来法では、試薬を用いた簡易検出とガスクロマトグラフィー装置による高精度検出の2つの方法があるが、前者は検出感度が低く、後者は装置自体が特殊で試料採取から結果を得るまでに数日間かかるといった難点があった。  DNAアプタマーと人工脂質2重膜中のα-ヘモリシンを利用したこの検出法は、DNAアプタマーの種類を変えることで、コカインとは異なる物質を特異的に検出することも可能である。この技術によって、将来、水質や大気などの環境調査や食品の衛生検査、事件捜査の現場において、様々な物質を対象にした、簡便・迅速・高精度な「その場検査」への応用が期待される。

パリレンナノポアを用いた脂質膜の安定形成

MEMS技術により、簡便にパリレンフィルムに400 nmのナノ孔を作製する手法を確立した。このナノ孔に人工の平面脂質二重膜を形成し安定性を評価したところ、溶液の交換などに対する物理的安定性が向上し、また経時安定性も従来の数時間程度から約120時間に大幅に伸ばすことに成功した。 研究業績:Small 2010 掲載、IEEE MEMS 2010 国際会議発表、特許出願中

α-ヘモリシンのシグナル同時計測チップ

高分子フィルムのマイクロ孔をはさむように、微小なウェルとチャネルを有するマイクロチップをフォトリソグラフィー技術と光造形技術を組み合わせて作製した。マイクロ孔に人工の平面脂質二重膜を形成し、膜タンパク質の一種であるα-ヘモリシンのシグナル同時計測を行うことに成功した。 研究業績:Anal Chem 2009掲載、MicroTAS 2008国際会議発表、ENS CachanとのJST戦略的国際科学技術協力推進事業成果

並列イオンチャンネル計測用マイクロチップ

複数同時脂質2重膜形成に成功しましたが(Langmuir2006)、今回は、それらの膜を利用して、実際に複数の膜から同時に独立してイオンチャンネル電流計測に成功しました。パリレン膜に微小孔アレイを加工し、そこに有機溶媒、水溶液を交互に導入することによって人工の脂質2重平面膜を再現性良く形成できるようになりました。そこへグラミシジンやαヘモリシン、アラメチシンなどのチャンネル電流を示すペプチドや膜タンパク質を導入しました。 各チャンバはそれぞれ電気的に独立しているので、そこから異なる種類のチャンネル電流を同時に計測できます。膜タンパク質のハイスループットスクリーニングなどへの展開ができると考えています。

PMMAマイクロフルイディックデバイスを用いた高再現性平面脂質2重膜再構成法

polymethyl methacrylate (PMMA) というプラスチック材料からできたマイクロフルイディックデバイスを用いて再現性の良い平面脂質2重膜の再構成法を開発しました.平面脂質2重膜は脂質溶液とバッファをチャネルに交互に流すことによって,直径100ミクロンの孔部に形成されます. 孔部での脂質溶液の量と配分によって脂質膜の状態が変わってくるので,正確にその状態をコントロールすることは大変難しいことです.そこで私たちは,一定量の脂質溶液が孔に均等に流れるようフルイディックデバイスの形状を工夫しました.また,脂質溶液の層は外部圧力を加えることで薄くなり,最終的には圧力が 200-400 Pa ほどのときに2重膜となります.形成過程は光学顕微鏡や電気生理的計測によってつぶさに観察することができます.2重膜構成率の最大値は 90 % というものでした.さらにこの手法を応用し,一つのチップ上に4つの脂質2重膜を形成することにも成功しました.最終的には,グラミシジンペプチドイオンチャネルを通したチャネル電流を計測することができ,このデバイスが単一分子の電気生理的解析に適していることが分かりました.

PMMAマイクロ流体デバイスを用いた平面脂質2重膜中での単一イオンチャネルの電気生理計測

平面脂質2重膜は電気生理学的計測を用いたイオンチャネル機能解析の為の強力なツールとして利用されています.私たちは高スループットスクリーニングのための膜たんぱく質チップの実用へ向けて,プラスチックマイクロデバイスを用いた平面脂質2重膜の再構成とその電気生理計測を行いました. このデバイスを利用することで,平面脂質2重膜の再構成率は 90% にも達し,複数の2重膜を同時に再構成することにも成功しました.また,このデバイスは,一分子レベルでのイオンチャネル解析へ適した優れた電気的特性を持っています.さらに,光学観察の容易性や脂質2重膜構成のコントロールも可能といった利点があります.

マイクロ流体システムによる平面脂質2重膜の再構成

膜たんぱく質の電気生理学的解析に役立つ平面脂質2重膜をマイクロ流体システム中で再構成する研究に取り組んでいます。この技術は膜タンパク質と作用する可能性のある多量な試薬候補を自動的に高速で解析するのに適しています。まず、100μmから200μmの孔の開いた基盤の両端にマイクロチャネルを組み込んだデバイスを作成します。次に、そのチャネルに脂質溶液とバッファ溶液を交互に流すことで、脂質2重膜を再構成しました。このとき、パリレンで流路をコーティングすることで2重膜再構成の再現性が向上すること、電気ノイズが減少できることが分かってきました。将来的には、超高感度のイオンセンサチップやハイスループット薬剤解析装置などへの応用を目指しています。

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